日本のデザインファームの資本政策
日本のデザインファームって、資本政策とか上場後の戦略とかがよくわからない会社さんが多い印象。
直近では、ビービットが楽天証券との資本提携のリリースをしていた。(2023/11/28公表)
ビービットと楽天証券は、「より良いUXの提供により、お客様の資産づくりをサポートすること」、ひいてはお客様に選ばれ続ける会社となるべく、本提携にいたりました。
(中略)
これまでビービットは、楽天証券のUX志向型の開発プロセス改善、公式ホームページのUX改善、新サービス立ち上げ時の企画支援などを手がけてきました。楽天証券はチャネル横断のユーザ行動分析にビービットが開発するSaaS「USERGRAM」を活用するなど、長年両社でのUX向上を目指してきました。今回の提携により、ビービットは楽天証券のUX起点による価値創出力の強化を全面的に支援し、楽天証券は、「役に立つことがビジネスの主目的となった一兆スマイル社会」の実現を目指しているビービットを、協業・資本参加という形で支援することで、人々の豊かな資産づくりの実現を目指します。
んーー、資本提携の説明になっていない感じしかしない。。。
外から見ると、証券会社の1社のみとの取引しかできなくなりますし(もともと競合避止があるかもですが)、ビービットは大半がクライアントワークなので楽天証券のように資本集約的なビジネスとの相性も良くないのではと。
しかも、楽天グループからそろそろ切り離される楽天証券からの資本参加を受け入れての話で、オンライン証券のNo.1~2には居続けるであろうから1社に絞ってもオンライン証券業界へのコンサルティングサービス提供としては売上制約にはならないとは思うが、楽天の業績主義の文化とコダワリが強い文化のビービットとで文化的な相性も良くなさそうで、独立運営しつつ楽天証券のUX開発でのサービス提供量が大きくなるだけ、という感じなんでしょうかね。
もしくは、ビービットが資金調達が必要だったのか。人月ビジネスなので少し考えにくいが。
私は2社目が博報堂の関連会社で、新規事業のコンサルを提供サービスとしている会社だったのだが、その会社自体も資本政策はあって無いようなものだったし、博報堂本体もデザインファームのIDEOをM&Aしているので、デザインファームは、
- 独立してコダワリを持って運営を続ける
・良い話があればM&Aでグループ入りしてバリューチェーンを広げる
くらいしか、資本主義的な選択肢が無いように思われる。
上場しているデザインファームとしてはグッドパッチがありますが、直近の決算説明資料でも出しているように、戦略系と保守運用系のところまでをバリューチェーン拡大する方針を打ち出している。
これはもう既視感がすごくて、アクセンチュアのような戦略コンサル・ビジネスコンサルが元々のサービスラインの会社がデザイン領域や広告代理店領域などにM&Aで進出していく流れと合致していて、グッドパッチの場合はデザインからスタートして戦略と保守運用をM&Aで拡大していくことを目指しているようである。
また、稼ぐ力と現在の市場規模としてはデザインコンサルよりもビジネスコンサルのほうが遥かに大きいので、お金で殴るとしたらビジネスコンサルのほうに分があり、グッドパッチがM&Aしてうまくいく確率とビジネスコンサルがグッドパッチをM&Aしてサービスラインを増やして収益を向上させられる確率とで考えると、後者のほうがこれまでのケースを見ていてもかなり再現性がある方法論であるように思われる。
グッドパッチの時価総額は2023/11/30終値ベースで57億円ほどなので、ビジネスコンサル会社がグッドパッチをM&Aするか、デザイナーの採用スピードはなかなか出しにくいのでMBOして資本政策を整理するというのが選択肢かなと勝手に考えている。
グッドパッチの従業員1人当たり売上高を計算してみたが、
- デザインパートナー事業(人月ビジネス)の2023/8期売上高:36億円
- デザインパートナー事業の2023/8期の2Q末時点のデザイン人材数:620人 (期央数値として2Q末時点を引用)
から単純に割り算すると、
- 36億円 ÷ 620人 = 約600万円/年/人
となる。
正社員に限らず業務委託でのスポット稼働等も含まれるので、仮に多めに見積もってフルタイム勤務換算のために1.5を掛けたとしても、
- 36億円 ÷ (620人 ÷ 1.5) = 約600万円 × 1.5 = 約900万円/年/人
となる。
ざっくり四捨五入したとしても1,000万円であり、Webサイト制作会社の普通の1人当たり売上高である1,000万円と変わらないかそれよりも低い水準の売上高しか創出していないので、生産性という意味でも高いとは言えない状況。(バリューチェーンの拡大をしていくよという写真のように戦略系も得意と書いているが、だったらもっと売上高は高くなるはずである。)
また、デザイナーの労働市場での普通にデキる人であれば年1,000万円は売る力が少しあれば到達するので、労働市場からしても競争力もなく、「年収が低くてもグッドパッチなら!」という定性的な採用力に頼っている可能性がある。それはそれで強いですが、いずれジリ貧になって人月ビジネスが故に売上の天井が作られやすくなる。
ビービット、グッドパッチとも、突き抜けたコダワリを持っている素晴らしい会社なはずなので、良さを活かしつつも、資本政策や資本市場との相性という面では、独立して適度な規模で続けるか、M&Aされてバリューチェーン拡大するかしか無さそうだなと改めて思った。