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プロジェクトワークと連続性

プロジェクトワークと連続性

企業価値を持続的に高めたいなら、MOATという概念をビジネスで具体に落とす必要があると考えている。

ただのお祭り型のプロジェクトワークで、ミーハーに集まったり離れたりをやって楽しんでいるだけだと、持続的な企業価値の向上にはつながらない。事実、コンサルティングファームとして上場している会社でも、プロジェクトワークをバンバンこなしているが時価総額も企業価値も一向に上がらず、時価総額数十億円ほどをずっとさまよっている企業がある。一方、プロジェクトワークとしてコンサルティングプロジェクトをバンバンこなしているうえで、ナレッジも人もお金も増え続けて企業価値が上昇し続けている企業もある。

私個人としてはAppleという会社やその製品は別に好きではないし、感触的には製品とかも常に過大評価されていて空売りを仕掛けてもいい企業だと思っている。ただ、これは私の個人としての主観的な見方であって、実際にAppleに空売りを仕掛けると含み損がかなり大きくなる確率が高いだろう。Appleを空売りすべきではないのは、AppleはMOAT戦略を取っているからである。そのなかのプロジェクトとしてM&Aで買収するという事象も織り交ぜならが数十~数百という買収を繰り返しながら企業価値を上げ続けている。

Appleの合併・買収リスト - Wikipedia

ちなみに私が「Appleは過大評価じゃね?」という超主観を持っているのは、iPhone5Cを使っていたときに、「こんなに触っていてつまらないプロダクトあるんだ」という感触を持ったからである。超主観である。そこに、MOATという概念、具体的に言えば、

  • プロダクト:iPhone、iPad、iPod、Mac、Watch ほか
  • ソフトウェア:MacOS、iOS
  • サービス:Store、Music、TV、Podcast ほか
  • カスタマーサポート
  • ファイナンス
  • M&A
  • バリューチェーン(ロジスティクス)

などの要素を全部マネジメントしていてインテグレートしていることをある程度客観的な視点で見てみると、空売りするのが妥当でないという落ち着いたポジショニングの答えが出てくる。(ど短期で空売りが失敗すると言っているわけではない。長期目線。)

プロジェクトワークを本質的に設計するなら、企業というプロダクトのことの、目的・コンテキスト・リソース・時間軸を本質的に理解しなければならない。そうでないと、プロジェクトとして発生しているものが何から切り出されたものなのかが理解されないまま、プロジェクト自体の価値も、プロジェクトの中で発生する想定外の事象の発生時のプロジェクトの中でQCDの更新もできなくなる。

私が3年以上身を置いている業界である、M&Aの観点から述べてみよう。

買い手としてM&Aをやる会社は、自社のMOATとエッセンスがわかっていないと、M&Aをすること自体が目的化して、連続的な価値創造ができないままになる。

M&Aは時間とお金を交換して非連続なことをやっているように思われることが多いが、本質的には、買い手の連続的なコンテキストを理解し、連続的に価値創造量を増やすという意味での「戦略」がないと、自分が何をやっているのかわからず、連続的な価値創造ができない。非連続なことに見えて連続的な営みなのである。

事例として少し話を戻すと、Appleが価値創造量(≒企業価値)を連続的に高めてジョブズ氏が無くなったあとも時価総額を高め続けて3兆ドルといった時価総額を実現しているのは、M&Aという手法を使用しているもの寄与してはいる。一方、M&Aをしたから直接的に企業価値が上がっているわけではなく(お金と企業・事業を交換しているだけなら、M&Aをした瞬間は企業価値は変わらない)、連続的に企業価値を高めるための戦略に合致するからM&Aをして時間を買収し、その後に事業を伸ばし続けているから企業価値が上がり続けているのである。

日本でMOAT戦略とM&Aを組み合わせて企業価値を持続的に高めている会社としては、

などがある。(他にも事例として適当な超有名な会社はあるがここでは割愛する。)

エムスリーは最近では特に有名だろうし、医者向けメディアを立ち上げたところから、地域セグメント×(医療業界のバリューチェーンの)領域セグメントでマトリクスを切ってオセロをひっくり返しに行くことを粛々とす進めている。

楽天も、経済圏としての楽天経済圏を構築する上で、ポイントは有名だが銀行をM&A(元はイーバンク銀行という名称だったものをM&A後に改名して楽天銀行とした)したり、証券もM&A(ディーエルジェイディレクト・エスエフジー証券という名称だったものをM&A後に改名して楽天証券とした)したりと、ファイナンスと買収を組み合わせて、楽天経済圏という連続的に価値を創造する環境のパーツを構築していった。

(この記事を書いている2023年4月現在では楽天モバイルへの大きな支出が発生しているために楽天銀行もIPOさせて切り売りして資金調達している状況なので、今後どうなるかはわからない。)

日本電算も言わずもがな。

近年、M&Aを年に数件のペースで続け、私も担当者や代表の方とお話したことがあるSHIFTも挙げるべきだろう。IR資料を見れば明らかだが、稼働単価×稼働人数×稼働期間=売上(利益)というビジネス構造のもと、それぞれに対しての組織体制や制度設計やM&Aによる持続可能な成長モデルを図式化し、粛々と進めている。(もちろん、外から見るとモデルとして美しく見える部分もあるかと思うが、M&AはM&Aだし、企業経営は企業経営なので色々なことが起こる。興味がある人は私なりM&A業界の人なりSHIFTの人なりに訊いてみてほしい。)

また過去に私は新規事業開発コンサルファームに短い期間だがいたことがあるのでその観点でも連続性について触れておく。

新規事業のコンサルや、新規事業をバンバン立ち上げていく会社は、大体の場合は、プロジェクト思考が強く、ミーハー的な一過性の思いつきとお祭りを楽しんでいる人が多い。

一方、事業と組織と財務という3つの重要なピースを横断的に理解して設計し、事業としてはプロジェクト的にゼロイチを組み立てて試行錯誤しつつも、その後の持続的な事業価値(企業価値)の成長を設計できる人はほとんど皆無である。本当に少ない。

新規事業の立ち上げの方法論や人材が社内に見当たらない(と思っている)からといって、新規事業のコンサルに頼るのは本当に気をつけた方がいい。ミーハーで本気じゃないから、大体の場合。(まじで気をつけてくれ。なんなら私に相談してくれ。数学も経済学も会計もM&Aも資金調達もセールスも新規事業もサービスデザインも事業推進もBPRもITプロジェクトもSalesOpsもティール組織立ち上げもやってきたから私に頼ったほうが絶対にROIが良いから。)

とまあここまでプロジェクトと連続性について述べてきた。

近年はVUCAの時代と呼ばれ、先が予測できないからという理由で連続的な視点を持つことを諦めているだけの企業も散見され、そういった企業でプロジェクトワークを盛んに開催し、お祭りをつなぎ合わせて企業経営している会社もある。

世の中全体でプロジェクトワークが増えていること自体は事実で、それはVUCA的な世の中の性質の変化にもある程度対応しているという意味で合理的と言えるが、世の中のある一部分を切り出しているからそれがプロジェクトとして、良い意味で視野を狭めてこなせるものとしてのプロジェクトとして集中できるようになっているだけである。

世の中自体はワンネスとして捉えつつ、どこからアプローチするのか、どの時間軸でアプローチするのか、どのリソースをかき集めてアプローチするのか、どのコンテキストを自分に引き付けてアプローチするのか、ということの結晶体としてプロジェクトを設計し、連続的で中長期的な視点を持って生きていくことを提唱したいし、私としてはそのような認識でいたい。

近年はギグエコノミーなどを中心に、ジョブと時間とお金の頻繁な交換がなされている。それは、インターネットというインフラが下支えしている側面はある。しかし、連続的ななかに我々は放り投げられており、すべての切り出しは連続的ななかで意味を持っている(意味を持ってしまうことから逃げられない)のだから、連続性という視点を時々は思い出し、また自分で能動的に描きながら歩んでいきたい。