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金銭的なダウンサイドリスクを減らす制度設計

金銭的なダウンサイドリスクを減らす制度設計

前職ではM&Aクラウドという会社にいたが、スタートアップ、特にIPOを目指す会社と日々お付き合いさせていただいていた。

ここ数年でのトピックとして、

  • 信託型ストックオプション (以下、信託SO)

の導入を検討する企業さんも増えている実感があった。

顧客企業においても、日本で「信託SOといえば」という一次想起のコンサル会社に相談して信託SOの導入を検討しているところもあった。



現に、Valuationzのサイトによると、信託SOを導入した状態で上場する企業も年々増えていることがわかる。

バリュエーション実務の総合解説サイト
バリュエーション実務の総合解説サイト。株価算定・ストックオプション価値評価・PPA目的の無形資産評価について、実務に即した解説記事を掲載。

私のいたM&Aクラウド(リクナビのM&Aバージョンのようなプラットフォーム事業を運営)において買い手企業として掲載している、スーパーマーケット、ドラッグストアなどの小売チェーンがECを立ち上げるためのプラットフォーム「Stailer」を運用する株式会社10Xの設計思想が様々な企業の参考になるかと思う。

10Xが信託SOや生株を組み合わせた制度設計をする理由 | Stock Journal
10Xが信託SOや生株を組み合わせた制度設計をする理由
Stailer(ステイラー) | 小売チェーン向けECプラットフォーム
「Stailer(ステイラー)」は、ネットスーパー・ネットドラッグストアの立ち上げと成長を支援するプラットフォームです。
小売チェーン向けECプラットフォームのパイオニア。業界変革に挑むシステム開発会社やプロダクト求む!
株式会社10XがM&A・出資先を積極募集中!M&Aクラウドは、事業売却や資金調達に向けて、優良買い手や投資家に自らコンタクトが取れて、すぐに会うことが出来るマッチングプラットフォームです。

大枠としては、「ダウンサイドリスク(想定外のことが起きた際のリスク)」をサポートするという思想のもと、下記のような制度を設計・導入されている。

  • 産前産後のサポートとして最大70万円支給
  • 育児のサポートとして認可外保育園利用の際に認可保育園との差額をサポート

当然、現時点での制度設計とその根底にあるダウンサイドリスクを減らすという思想なので、今後も不変であるというわけではないかと思われる。

それでも、

「リファラル採用で1人紹介したらいくら」といったアップサイドの福利厚生は逆の発想なのでほとんど提示していません。

といったことを記事の中で語っており、社としてのポリシーが明確である点が非常に良いなと個人的に感じている。

従来からある税制適格SOも有償SOも、発行時点でSOの付与数を決めるという硬直性がありますが、信託SOであれば評価制度と連動させて貢献度合いに応じて付与数を変えられる(後から決められる)柔軟性があるというのが私個人としては最大のメリットだと考えている。


一方、ある一時点で付与数を法的に決めてしまって長期でコミットして(まずは)上場まで一緒に走る、ということをポリシーとする企業に関しては税制適格SOや有償SOがマッチする可能性がある。


ここは、例えば10X社であれば、ダウンサイドリスクを減らすことを設計思想としているので、時間の経過に応じて発生する事象に対して動態的に対応することが制度設計における必要条件になるため、産前産後や育児サポート等の具体的な制度を導入されておられると考えられる。

そのため、「社としてのポリシーは何か?」を、対象市場・ビジネスモデル・望ましい組織構造・ビジョンなどから考えて、弁護士などの専門家と相談しながら決めていくことが重要である。

退職時にSOが失効するかどうかも企業によって異なっているので、スタートアップ企業の運営や転職においては是非正面切ってお訊きするのがオススメ。

(このあたりを誤魔化す企業は社のポリシーとして歪みまくるので、慎重に検討したほうが良い。)

といいつつ、信託SOについては国税庁がYoutubeで動画を流しその発表を行ったが、税務上の取扱いについて、行使時の経済的利益は「給与として課税される」旨の見解が明らかにされた。本気である。 (本気で課税しに来てる、という意味)

株価が安いときにたくさん発行して、頑張った人にその安い行使価格のストックオプションを渡せる、というのが信託ストックオプションのメリットだが、国税庁の見解の通り、成果報酬型のインカムゲイン(所得、インセンティブ)の性質があるので、今回の課税は納得感自体は徐々に醸成されると個人的には見ている。

が、そのメリットを活かして採用してきた企業だったり、配分を受けていた労働者からすると、総合課税でたくさん課税されることになるので大変ではある。。。

とはいえ、法律が変わるとか、税率が変わるとか、そういった外部環境が変わる中で事業や会社を運営することは、地政学リスク、パンデミックリスク、またその他の需要変化や消費者動向の変化と同じく、企業として粛々と対応していかなければいけない事項の1つであり、文句を言ってひっくり返せるのであれば別だが、粛々と対応して次に進む、ということが常にやるべきことではある。

こういったマクロの動向から影響を受けるミクロ主体としては耐えどころですが、財務テクニックも適度に使いつつも、事業に集中するのがやはり妥当!と思う。

同時に、日本のSO発行の慣習は歪んでいる部分がたくさんあるので、今回の信託SOのみならずSOの発行方法や設計については、もっとインセンティブとしてワークするような方向で学習と実装が進み、プラクティスも蓄積されることが望ましいと考えている。

国税庁の発表やそれを受けての対応や考察については、複数読んだ中ではこちらの記事が一番わかりやすいかと思いますのでシェアする。

※6/1更新版【解説】信託型SO問題まとめと、スタートアップがとるべき具体的対策 | Stock Journal
5月29日に開催された「スタートアップの経営者や支援者のためのストックオプション税制説明会」にて、国税庁・経済産業省から正式な説明があったことを受け、本解説記事を作成しました。説明会では、上記の信託型SOに関する課税関係以外にも、税制適格SOに関する新たな株価算定ルールも公表されました。こちらはスタートアップにとって非常に有利な内容で、おそらく株式報酬を推し進める国の中でもトップレベルの内容になっています。なるべくわかりやすい記事になるよう、あえて口語調の記事にしています。「自社で信託型SOを導入しているが、どうしたらいいの?」という方に、ぜひ読んでいただけたらと思っています。

その上で、本稿のテーマである「金銭的なダウンサイドリスクを減らす制度設計」として、合理的にインセンティブとして実際にワークして、事業規模・財務規模においても競争力を持つ仕組みとしてSOの発行を有効なものとして活用されていってほしい。